少し前まで、土地を持っていることは財産を持っていることとほぼ同じ意味でした。
地価は上がるものという前提があり、いざとなれば売れる。そういう時代が確かにありました。
けれど今は、土地を相続したことで「困った」という方が増えています。
親の実家がある地域に、子どもはもう住んでいない。
戻る予定もない。
売ろうとしても買い手が見つからない。
それでも固定資産税は毎年来て、草刈りを怠れば苦情が来る…。
こうした悩みは、個人の意思の弱さから来るものではありません。
相続人が複数いて意見がまとまらない、査定を受けるのが怖い、実家に向き合うと親の死を思い出してしまう。
手続きより先に、そうした心理的な壁が立ちはだかっていることがほとんどです。
相続土地国庫帰属制度は、こうした時代背景の中で生まれた制度だといえます。
この制度は、相続や遺贈で受け継いだ土地を、一定の条件のもとで国に引き取ってもらえるしくみです。
2023年4月にスタートしました。
対象になるのは、相続などで取得した土地に限られます。
自分で買った土地は対象外です。
申請には審査手数料がかかり、承認されると10年分の管理費に相当する「負担金」を国に納める必要があります。
金額の目安や最新の条件は変わることがあるため、詳しくは法務局や専門家にご確認ください。
ここで一番大事なのは、「いらない土地なら何でも引き取ってくれる制度ではない」という点です。
むしろ、国が問題なく管理できる状態かどうかを、かなり慎重に審査するしくみになっています。
背景には、日本社会の大きな変化があります。
高齢化が進んで相続が増え、地方の土地の需要は下がっていく。
結果として、売れない土地・使われない土地が増えました。
使われない土地は、やがて管理されなくなります。
草木が伸び、境界があいまいになり、登記もされないまま世代が変わっていく。
こうして「所有者不明土地」・・・登記の名義人が亡くなっても更新されず、実際に誰のものか分からなくなった土地、が全国で増えました。防災工事やまちづくりを進めようとしても、所有者を探すだけで時間がかかる、という事態が各地で起きています。
こうした状況への対策として、国は2つの制度を整えました。
ひとつが「相続登記の義務化」(2024年4月施行)で、誰が所有者かを明らかにするもの。
もうひとつが今回の「相続土地国庫帰属制度」で、どうしても持ち続けられない土地を手放す道です。
2つをセットで見ると、「登記して、管理して、それでも難しければ手放す道もある」という国の方針が見えてきます。
「うちの土地も使えるかも」と思った方に、確認していただきたい点があります。
実家が建ったままの状態では、基本的に申請できません。解体して更地にする必要があります。解体費用は規模によりますが、一般的にまとまった金額がかかるとされています。費用の目安は建物の状態で大きく変わるため、複数の業者に見積もりを取るのがおすすめです。
隣の土地との境界線が分からない土地は、認められにくい傾向があります。境界の確定には測量が必要で、隣の所有者との合意が求められるケースもあります。
住宅ローンの担保が残っている土地、急な傾斜地、土壌汚染の疑いがある土地、地中に埋設物がある土地なども、承認されにくいとされています。
つまり、国が引き取るのは「誰も管理できない厄介な土地」ではなく、**「国が管理できる状態に整えられた土地」**です。部屋を貸すときにゴミが残ったままでは貸せないのと同じで、手放したいからこそ、まず整える必要がある──それがこの制度の現実です。
ここが一番お伝えしたい部分です。この制度は基本的に「土地」のしくみですが、現場で問題になるのは多くの場合「建物付きの土地」です。
実家が建ったまま残っている。家財がそのまま。解体費用を用意できない。境界が昔からあいまい。相続人が複数いて意見がまとまらない。草木が伸び、近隣から苦情が来始めている──。こうした状況では、制度を使う前に解決すべきことが山積みです。
ただ、裏を返せばこうも言えます。制度を使えるところまで整えられれば、ほかの選択肢も一気に広がる、ということです。建物を解体し、境界を整理し、権利関係をはっきりさせれば、国庫帰属だけでなく売却・賃貸・活用といった道も見えてきます。
一番もったいないのは、「どうせいつか処分するから」と放置している間に建物が傷み、家財が増え、草木が茂り、気づけばどの選択肢もお金と手間が倍以上かかる状態になっていることです。「実家を片付けるのは、親の死を認めるようでつらい」という気持ちはよく分かります。それでも、向き合わないでいる間にも建物は着実に傷んでいきます。管理を始めることは、過去を消すことではなく、これからの選択肢を守ることだと考えています。